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「イタリアの自転車事情 第2回」

レポーター:岡野勇人

「夜間サイクリング」

 暮れのあるパーティで興味深い情報を得た。ミラノには毎週木曜日の夜、自転車で街中を集団で走るイベントがあるというのだ。
 早速、年が明けて1月2日木曜日。夜9時半に集合場所だと言われているドゥオーモ近くのピアッツァ・メルカンティに自転車を走らせた。

 最初、数台しかいなかったその広場だが1台、また1台と自転車は増え、総数は40台にもなった。
 「最近は雨続きで寒いから数は少ないけど、最高に多い時で900人なんてこともあるんだ。」
 赤いジャンパーに黒のニット帽のオッちゃんが教えてくれる。 真面目そうなサラリーマン、若いニイチャン、ネエチャン、50歳近いおっさん。集団に統一感はない。

 午後10時。笛の合図で一斉に広場をスタート。スフォルツァ城に向かって走り出した。いい歳のおじさんがラジカセを積んだチャリンコでガンガンに音楽を流す。雄たけびだって上げる。  自転車を集団で走るという何とも言えぬ爽快感。ミラノの冷たい空気を感じつつ、顔がにやけた。石畳の道路からくる震動もとても心地良い。

 城の手前で1台の自転車がパンク。直しているのを待っている間、シャンパンで新年を祝った。
 再び集団は走り出すと、城の脇を抜けしばらくすると並木道へ。ミラノの地理に明るくない私は、この辺から何処を走っているのかまったくわからなくなる。  並木道にでた集団は道いっぱいに広がり、後ろに100メートル程の車の渋滞をつくりながらゆっくり進む。当然、後ろからクラクションが鳴るのだが一向に気にしない。  信号があれば車に待ってもらう。例え青でも。
 とうとうパトカーが現れ、集団を監視し始める。あまりにも長く続く渋滞。とうとうみかねた警察が車から降り注意。
 「たのむからもう少し早く走ってくれ!」

   1時間半くらい走ったところで、集団は行き付けのバールへ行くが、正月ということでやっていない。行き場がなくなり次々と自転車がチャオの一言で帰っていく。  残り9人になった集団は、アジトへと向かう。工場の廃墟で塀の外からもれる街灯の光以外は何もない真っ暗な所。自転車を降り、先頭を行く一人が蝋燭に一つ一つ火を灯し道を作る。
 ところどころには何十台も自転車の残骸がある。2階に上り扉を開けるとそこは自転車の修理工場になっている。バスケットコート程の広いスペース。隅には蒔きのストーブがありそれで暖をとった。

 一つの蝋燭を輪にして座り、彼らはいろいろと話した。イタリア語のわからない私に親切な女性がまだマシな英語に訳してくれ、話に少し参加した。普段飲まないビールを飲み酔った私は、蝋燭を見つめこの非現実感に陶酔した。

 午前3時。集団は解散し現在地をわかっていない私は、仲良くなった二人組みに深夜のミラノを案内しもらい途中まで送ってもらった。広い通りに出るとこの道を行けば家の近くに出ると教えてくれた。来週も行くことを約束しチャオとグラッツェを言い彼らと別れた。  少し靄がかった夜道を1.5km程走ると、地下鉄を示すオレンジ色の”M”の看板が見えてくる。駅名はRomoloと書いてあり、私の良く知っている駅だった。  そこで初めて自分の居場所がわかり、現実に戻った気がした。
 
 彼らはクリティカル・マスと言いサンフランシスコを発祥に世界的に広がりつつ集団であるということが後でわかった。日本でも各地にあるとのこと。  普段、交通社会の中で立場の弱い自転車が、徒党を組んで存在を主張するこの運動。乗り物が自転車であるため、何処となく茶目っ気があり、時に道行く人に応援されたりもする。注意した警官も決して好戦的でなく、やれやれといった感じなのである。

 私のミラノの木曜日夜は当分この集団暴走サイクリングになりそうである。
  
 クリティカル・マス・イタリアのホームページ http://www.inventati.org/criticalmass/home.htm
  
 クリティカル・マス・東京のホームページ
 http://www1.cts.ne.jp/~ku-za/cmt/index_ms.html
  

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